2010年5月31日月曜日

普天間問題―まだ何も終わってなどいない。その1

普天間問題に関して、マスコミが基本的な事実関係を報道しないことが主要な原因であろうと思われるのですが、一般に誤解が蔓延しており、また今回の2+2日米合意声明についても、その背景や意味について理解が浸透していないため、ここに書き記しておこうと思います。

一番重要なことは、まだ辺野古に決まったわけではないということです。実際、辺野古の海を埋め立てる現行案の実現はほぼ不可能であり、辺野古に作られない可能性が日米合意にはあらかじめ組み込まれています。また、訓練の県外や「グアムなど」への国外への移転の検討も含まれています。鳩山首相が先日の記者会見でいったとおり、沖縄負担軽減の第一歩、いや半歩が始まったばかりなのです。それにも関わらず、「これで終わってしまった」という国内世論が作られてしまうことは非常に危険です。

まず、この問題のもっとも重要なポイントである、だけど国民には周知されていない、いわゆるグアム協定について説明をしておく必要があります。(Twitter経由で来た人は、聞き飽きた話だと思います。ごめんなさい(笑))。この協定の前段階としては、米軍再編によるグアムの軍事ハブ化にもとづく、2006年5月の「再編実施のための日米のロードマップ」があります。この日米ロードマップを結んだのは、小泉首相および、麻生太郎外相、額賀福志郎防衛庁長官で、そこでは米軍自身都合による再編であるにも関わらず、、「これらの案の実施における施設整備に要する建設費その他の費用は、明示されない限り日本国政府が負担するものである。」という内容が、国会の審議も十分になされず、また国民にも知らされないまま、策定されているのです。

それをうけて、2009年2月に中曽根弘文外相とヒラリー・クリントン国務長官がグアム協定、正式名称「第三海兵機動展開部隊の要員及びその家族の沖縄からグアムへの移転の実施に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」を締結したのです。グアム協定では、普天間飛行場の代替施設が辺野古に設置されることを条件として、嘉手納以南の8000人の海兵隊が、2014年までにグアムに移ることが規定されています。そして、残りの海兵隊のために、辺野古に大規模な普天間代替施設を建設し、かつ米軍のグアム移転予算の大部分である60億ドルを負担するという、控えめに言って不公平な合意内容だったわけです。

そして、さらに信じがたいことなのですが、普天間問題について論じる際、このグアム協定にかんして、主要マスコミはほとんど全く報道してこなかったのです。実際、Googleニュースなどで「グアム 協定」などについて検索すると上がってくるのは、ほとんど5月28日の日米合意時のみです。

なぜこの事実を報道してこないことが問題なのか。それは、グアム協定を前提とすると、

①普天間問題の意味が違ってくる、
さらに
②今回の日米合意の意味が、まったく異なった文脈で見えてくる、

からです。

①沖縄に在留している海兵隊の人数は正確な数が発表されていないのですが、12000人程度と推定されています。そしてもう一度強調すれば、そのうちの8000人がグアムに移転することが決定されているのです。要は、普天間問題のエッセンスは、「沖縄から海兵隊が大部分出て行った後の、普天間基地の代替機能をどうするのか」、ということなのです。この代替機能というのが何なのか、実のところ正確にはわかっていません。ただし、グアム協定を念頭におくなら、単に普天間基地をそっくり辺野古に移す、という話ではありえないことは容易に理解出来ます。

ともあれ、鳩山首相は野党時代、この代替施設は県外に移設可能であると考えていた。たとえば、鳩山首相が沖縄に言ったときの談話で抑止力について述べたときに、「海兵隊が抑止力であるということすらわかっていなかった」という批判がありましたが、この発言はいくつもの事実誤認に基づくものです。第一に、ほとんどの軍事専門家の見解が一致するが、攻撃・占領用部隊である海兵隊は決して抑止力ではない。第二に、海兵隊の大部分はグアムに移転することが決定されていることを、彼らは知らないか無視している。第三に、移転するのはあくまで第三海兵隊であって、抑止力の中核である嘉手納の空軍基地は、さしあたりそのまま残される。第四に、ある意味でもっとも重要な事ですが、鳩山首相はそもそも「海兵隊は抑止力である」とは言っていないということです。

 

わたくしは海兵隊というものの存在が、はたして直接的な抑止力にどこまでなっているのかということに関して、その当時(注:野党時代)、海兵隊という存在そのものをとりあげれば、必ずしも抑止力として沖縄に存在しなければならない理由にはならないと思っていました。ただ、このことを学ぶれば学ぶにつけて、やはり、パッケージとして、すなわち海兵隊のみならず、沖縄に存在している米軍の存在全体の中での海兵隊の役割というものを考えたときに、それがすべて連携していると、その中での抑止力というものが維持できるんだ、という思いに至ったところでございます。それを浅かったと言われればその通りかもしれませんが、海兵隊に対する、存在のトータルしての連携の中での重要性というものを考えたときに、すべてを外に、県外あるいは国外に見いだすという結論には、私の心の中に、ならなかったと、いうことであります。

私は、仮にも研究者のはしくれ、特に厳密なテクスト解釈のエキスパートとして言わせてもらうと、鳩山首相が「言葉が軽い」というのは明らかに間違いです。彼は、理系の研究者らしく、非常に言葉を厳密に、選択して使用しており、それを丁寧に読めば真意がわかるようになっているのです。それを読みとれないで、適当な、かつ誤った解釈をしたあげくに、「迷走している」とマスコミは言っているだけで、迷走しているのはマスコミの方ではないでしょうか。

ともあれ、以上の鳩山首相の発言を「海兵隊が抑止力だと思わなかった」と要約するのは、明らかに間違いです。あえて要約すれば、「海兵隊の機能の一部に、他の在沖部隊と連携している部分があり、それだけは県外に出すことは、抑止力の観点からできない。」と言っているのです。そして、この機能とはいかなるモノか、野党時代は知らず(実際ほとんどの軍事専門家の「海兵隊はそれ自体では抑止力ではない」という認識と一致しています)、かつこの発言以降も全く触れていないことから、この「機能」が首相でしか知りえない機密事項であることさえ読み取れるのです。実際、ここで鳩山首相が言ったことは、軍事機密であったことを、後で本人が言っています。

この発言を捉えて、鳩山は「海兵隊が抑止力であることすら知らなかったのか」と批判する自民党側の人も、また「そもそも海兵隊は抑止力ではない」と批判する海外移設主張派も、読み間違えています。では、他の部隊と連携している、県外に移設できない機能とはなんなのか?ここから先は憶測でしかありませんが、内田樹氏は、私が先日緊急避難用に転載したブログ「「それ」の抑止力」で、核兵器ではないかという推測をを仄めかしています。また、元菅直人の政策秘書でありフリージャーナリストの松田光世さんはTwitterで、県外移設が不可能な普天間基地の隠された機能とは、嘉手納空軍基地のバックアップ機能―嘉手納を飛び立った米軍機が、嘉手納が攻撃されても 無事に戻れるようにする―というものであると明言しています(普天間日米交渉の行方・5月末の期限の意味~~@matsudadoraemonつぶやき編集)。

県外移設できない機能がなんなのか、日米政府ともに全く公表していない以上、それがどのような機能で、どの規模の施設が必要なのか、はっきりとはわかりません。それが単なるバックアップ用の滑走路なのか、それとも現行案のような、新たな大規模な基地なのか、それもわからない。ともあれ、もう一つ鳩山首相の発言から読み取れることは、どうしても県外に移設できない隠された機能以外の普天間基地機能の大部分は、県外・国外に移設可能であるということです。これは鳩山首相が実は一貫して言っていることなのですが、全く理解されていないことです。グアム協定について全く報道しないマスコミの論調からすれば、日本国民の大部分が、政府案を普天間基地をそのまま辺野古にもってくるという話であると信じ込んでいても仕方がないでしょう。

もう一つ重要なことは、現在日米間で協議されているのが、普天間移設にとどまらず、沖縄県の基地全体としての軽減負担であるということです。たとえば、鳩山首相が5/27に全国知事会議に依頼した訓練の県外負担は、そもそも沖縄県全体が負担している訓練の分散です。それは、今回の日米合意を読めば理解出来ます(日米合意については、次期のアップで論述する予定です)。にも関わらず、マスコミは鳩山首相が「普天間移設問題にかんして」の「訓練移転」を求めているといった誤った報道を行うことで、普天間移設に関する合意期限の五月末のぎりぎりになってまで迷走している鳩山首相というミスリーディングな印象を作り出すばかりか、鳩山政権による沖縄県民負担の軽減という真摯な取り組みをおそらくは意図的に無視し、踏みつぶそうとしているのです。

とても大切なことなので、もう一度言います。マスコミは、広い意味での普天間問題について、事実に基づく正確な報道を行っていません。先日、NHKのこどもニュースで、普天間問題の解説をしていましたが、見ていて腹が立ちました。グアム協定の話を完全にすっ飛ばして、普天間基地を辺野古に移すという話をして、「約束を守れない鳩山首相は困ったものだ」という論調で終わっていました。大人が騙されるのは、本人の情報収集能力および知的能力の問題もあり、ある意味で自業自得です。だけど、文字を読むのが困難なため、自分で情報を調べることができず、その情報を自分で判断することができない子供に、嘘を教えるのはやめてほしい。悪質きわまりない。

詳述は面倒なのでしませんが、今思いつく限りで報道されていない話を列挙します。

  • 「辺野古で決まっていたのに、鳩山が潰した」という言いぐさも、まったく間違っています。そもそも普天間返還と辺野古基地の新設が決定した1996年のSACO合意では、2001年から2003年には、普天間基地は返還されていなければならなかったのです。それが現在に至るまで杭一本打てなかったのは、激しい反対運動があったからです。要は、自民党政権下において、普天間問題はすでに膠着状態だったのです。
  • そもそも辺野古埋め立てをする現行案は、アメリカの環境団体が提出した「ジュゴン訴訟」で米政府が、中間報告で敗訴しているため、ほぼ不可能な状況となっています。(米国でのジュゴン裁判、保護団体勝訴・問われる日本のアセスメント)。だけど、今回の普天間問題に関して、ジュゴン訴訟について論じた大マスコミは、私が知る限り皆無です。
  • 海外の有力な移設先として、テニアン議会が満場一致で、日米両政府に基地の誘致を求めているのですが、それを報道したのは朝日新聞だけで、それもTwitter上で指摘を受けてからの話です。しかも「日米両政府は非現実的という見解」という内容のタイトルをつけての上でした。

ともあれ、以上の事実関係を前提にしないと、今回の日米合意の意味を理解することもできませんし、その件に関する鳩山政権の評価もできないはずです。なのに、マスコミは基本的な事実を報道せずに、すべてを鳩山首相の責任としてなすりつける論調を作り上げた上で、鳩山政権についての世論調査ばかり繰り返しています。

つい先ほど、愛媛新聞社が「抑止力のわな」という記事で、「きのうの日米共同宣言で、急に実働部隊のグアム移転をにおわせたのも不自然だ」と書いていて、仰天しました。急にって、おい(笑)。僕はこれまで、マスコミが事実関係を知った上で、それを意図的に隠蔽しているのだとばかり思ってたし、上でもそのように書いてきました。だけど、この論説を見る限り、どうも記者はグアム協定について、本当に当日までなにも知らなかったらしい。グアム協定という一番根幹の事実について知らないのなら、マスコミをやめた方がいい。

②の日米合意については、次回書きます。

2 件のコメント:

  1. はじめまして。

    ishtaristさんのツイートをずっと読ませていただいて、はじめて政治でどきどきしながらこの1週間をすごしました。微力ですが、拡散の協力をさせていただきます。

    http://twitter.com/nagomilabo

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  2. はじめまして。

    拡散ありがとうございます。
    私もフォローさせていただきました。
    つたないツイート&ブログですが、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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