2010年6月20日日曜日

経済成長とはなにか―経済システムを理解するための簡単なレッスン―

色々書きかけで申し訳ありません。僕の癖なので、たぶん一生なおりません(笑)。
最近の僕の関心が、消費税増税問題に向かっていました。で、消費税増税でどのような怖ろしい事態が起こるのか、きちんとシミュレーションを示しておこうと思った。のですが、この問題の根本に、一般人のみならず、経営者、そして経済学者の、経済というものに対する根本的な無理解があることに気づきました。はっきり言ってしまえば、彼らが経済とはどういうものなのか、まとまったイメージができておらず、全体像をまったく把握していないのが問題なのです。
たとえば、消費税を増税することに経営者や経済学者の大部分は賛成しています。だけど、消費税を10%に増税しても日本人の給与の総額は変わらないので、個人消費が4.5%落ち込むことは確実です。たとえば、私の月給が10500円として、そのお金で1万円分のモノを今は買えます。ですが、消費税を10%にすると、9545円分しか使えなくなります。
僕は、消費者が単に損をします、といいたいのではありません。そうじゃなく、個人消費が4.5%おちるということは、消費者にモノを売っている企業、サービスを提供している企業、それらの製造業、物流業まで、全体として売り上げが自動的に4.5%下落するということを意味しているのです。そして、驚くべき事に、その事実を指摘している経済学者や経営者が、少なくとも表立ってはほとんどいないのです。はっきり言わせてもらいますが、彼ら、朝三暮四の猿※より頭悪いです。

結局、この問題は、経済を循環するシステムとして理解できていない、ということに帰着するのではないかと思うわけです。だから、消費税を「消費者が負担するお金」としてしか考えられず、それが企業の売り上げにどのように影響するのかも想像ができない。
また、今、法人税減税と消費税増税がセットになって景気回復のためのパッケージとして提示されているのは、法人税増税が企業の利潤を低下させるから経済成長を阻害するのに対し、消費税は消費者からお金を取るため経済成長を邪魔しない、というのが彼らの暗黙の前提だからでしょう。言い換えれば、経済学者や経営者・政治家たちは、経済成長とは企業が利潤を最大化することだ、と考えている。
でもそれははっきり間違っています。経済成長とは、生産→分配→消費(→生産・・・)の循環を強化し、その速度を高めることです。そして企業の利潤を最大化することが経済成長に繋がるのは、インフラを整備する高度経済成長期や、政治的・経済的植民地を拡大し続ける帝国主義的時代など、経済のパイが拡大しつづけているごく一部の特殊な条件においてのみです。多くの成熟した経済システムにおいて、公平な分配がされていないということは、経済を停滞させるどころか、その規模を縮小させる自滅的な行為なのです。本稿では、ぜひ皆さんに、そのことを理解してもらいたいと思います。

「経済成長とはどういうことか」を、もっとも簡単なモデルで説明します。僕とあなたが小石100個と1000円を交換する閉鎖的な経済システムです。全世界には、僕とあなたと小石と1000円札しかないと考えてください。小石じゃ意味が無いと思うなら、フライドチキンでもマックナゲットでも構いません。

まずあなたが小石を100個持っていて、僕が1000円をもっています。それを一日に一度交換するとしましょう。まず、僕が小石を100個もらって、1000円札を渡します。次の日、あなたの小石と私の1000円を交換します。さらに次の日、私の小石をあなたの1000円と交換します。一ヶ月が30日だとすると、私とあなたの月収はそれぞれ15000円で、そのお金で小石をそれぞれ1500個買えました。この2人きりの経済システムの月間GDPは30000円です。
さて、このGDPを二倍にするにはどうしたらいいでしょうか?千円札の代わりに、今は影も形も見られない2000円札(あれ、そういえばほんとどこに消えたんだろう?w)を導入してもあまり意味はないですよね。小石の値段が変わらなければ2000円の半分しか使えないし、小石の値段が半分になれば、実質GDPは変わらない。なので、小石の量も二倍にする。それが普通の答えかもしれません。
でも、もっとシンプルな解決法があるんです。1日に1回交換していたのを倍の速度にして、1日に1往復交換する。つまり、私が今日小石を売って、同じ日に買い取る。そうすると、月収がそれぞれ30000円で、そのお金で3000個の小石が買えたことになります。動いているお金が1000円札1枚であることには代わりありません。でも交換速度が倍になったことで、経済規模が月間GDP30000円から60000円と、2倍になったのです。

えっと、論理的に一番シンプルなモデルにしたため、登場人物をふたり、商品を一種類にしました。まあ、ほんとのことを言えば、商品が1種類しかないなら、交換することに意味はないですよね。でもイメージがつかめれば良いんです。商品を2種類にしても一緒です。私がマックナゲット生産者で、あなたがハーゲンダッツやさん。で私はハーゲンダッツが大好きで、あなたがマックナゲット大好き。今日マックナゲットをあなたに売って得たお金で、次の日ハーゲンダッツを買う、という交換速度を倍にして、今日すぐにハーゲンダッツに使っちゃお☆ってことにしちゃうと、お互いに収入が倍になって、しかもハーゲンダッツもマックナゲットも、2倍食べれますよね。
ともあれ、経済とは、生産して、分配・交換して、消費する、そのサイクルだということが理解してもらえればそれで良いです。そして、経済規模が思ったより増えない、あるいは落ち込む場合、その経済システムのサイクル(再生産構造)のなかで、どこがボトルネックになっているのか、それを考えなければいけない。それも、なんとなくイメージしてもらえるのではないかと思います。
最初モデルに戻ります。わたしがお金が好きなので、できるだけ手放したくない><って思って、私がお金を持つターンでは、2日間滞留させるとします。そうすると交換が往復するのに3日かかることになるので、それぞれの月収は10000円、小石は1000個、月間GDPは30000円から20000円と、33%落ち込んじゃいました。ここで面白いのは、この経済の落ち込みの原因は私の強欲にあるわけですが、みんな(って2人ですが(笑))が等しく損をするってことです。僕の強欲は、単にお金を持ってるターンを長くしただけで、ぜんぜん自分の得になってません。なので、こういう場合、必要以上に長くお金を持てばレッドカードを出すとか、逮捕して監禁しちゃうとか、そういうことをすれば、経済は回復します(笑)。

さて、僕の強欲が、経済システム全体の成長にとってプラスの結果を生み出さない、という話をしましたが、もっと現実に即した強烈なお話しをしましょう。私がこのシステムで、自分の利潤の最大化を目指したらどうなるのか、をシミュレーションしてみます。私(ジャイアン)はあなたより力が強くて傲慢、あなた(のび太)は力が弱くて優しいと仮定します。(あ、あくまで仮定ですよ。)なので、この力関係を反映して、私があなたに売るときは小石100個で1000円、あなたが私に売るときは小石100個で500円とします。私が最初小石を100個もっているため、あなたが1000円で小石100個買います。次の日私はその100個を500円で買います。私はいま手元に、小石100個と現金500円があるので、500円タダで儲けた計算になりますね♪すばらしい成果です。
でも、次の日からなんだか雲行きが怪しくなります。あなたは500円しかもっていないので、次の日、小石を50個しか買えないのです。私の手元には、小石が50個、現金が1000円あります。その50個を、翌日私は250円で買い取ります。さらに次の日、あなたは250円しかもってないので、25個しか買えません・・・・。こうやって、私が儲けた分、交換は半分ずつ縮小していくのです。
ここでそれぞれの月の収入を考えてみましょう。私の月間の収入は、1000+500+250+125+62.5+31.25+・・・≒2000円で、小石が100+50+25+・・・で200個買える。あなたの月間の収入(つまり私の支出)は500+250+125・・・≒1000円で、最初の手持ちの1000円とあわせて、小石を200個買ったことになります。このシステムでは、私はあなたの倍儲けたことになります。
ですが、あれ?私はほんとに儲かってますか!? だって、公平な交換のシステムだったら、私はもともと15000円の収入があったし、小石だって1500個も買えたんですよ。なのに、私が強欲を出して儲けようとしたとたん、7.5分の1の収入になっちゃいました><。システム全体の月間GDPで見ても、3000円なので、経済規模は10%まで落ち込んでます。
で、さらに悲惨なのは翌月です。不公平な交換を繰り返したので、その前の月までに、私の手元には小石が100個、1000円、ほとんどもってることになります。それに対し、あなたは事実上一文無し、鉄鎖の他には所有するモノがなにもない完璧なプロレタリアートです(笑)。でも、なにもないってことは、交換ができないってことです。なので、次の月には、経済システムそのものがもうなくなっちゃってます(笑)。
まあ、さすがにそうなると、僕も困っちゃうので、いくら頭が悪くても、どこかで気がついてもうちょっとマシな解決策を探って生き延びようとするでしょう。たぶん、どこかで僕が売る小石の値段を少しずつ下げて、できるだけあなたに買って貰おうとするでしょう。まあ、最初から小石100個500円で売ってたらいいのですが、そうすると、自分の交換とあなたの交換とが同じ条件になっちゃう(笑)。「そんなことしたら儲からないじゃないか、儲からなければ経済は発展しない」と思い込んじゃってるので、やっぱり有利な条件は維持しようと思って、「100個750円」ぐらいまで値段を下げて様子見をするんじゃないかと思うわけです。もちろんデフレが起きますし、それでも売れないので、交換速度がどんどん落ちていきます。面倒なので厳密なシミュレーションはやめときますが、破滅までは行かなくても、経済規模が大幅に縮小するのは確かです。
結局なにが問題なのか。それは交換の際に「相手に充分にお金を渡していない」ことです。言い換えれば、自分が儲けた分、相手はお金が減っていくから小石が売れないのです。そうなってから、どんなにがんばってセールスをしても、小石に綺麗なラッピングをして相手の気を引きつけても、無駄です。相手がどんなに小石が欲しくても、買うお金がないんですから(笑)。だから、私は「公正な交換をしないと結局自分が損をする」、「自分だけが利潤を最大化しようとすると経済システムが破壊される」っていう根本的な事実に気づかないといけないのです。

現実の経済システムに関しては、もうちょっと(っていうかはるかに)構造が複雑です。生産設備を生産したり、税金があったり、あるいは銀行システムがあって、利潤や貯蓄が他の部門に投資されたり。だけど一般化していうと、この生産→分配→消費というサイクルこそが経済システムであるという事実には代わりありません。それさえわかっていたら、経済学者がいまメディアで言ってることの大半が、さっきのモデルの「儲けようとして経済を壊した僕」と同じぐらい、頭がおかしいことが理解できると思います。たとえば、内需が足りないから需要創出イノベーションしなきゃとか言ってる人がいますが。企業が支払う給与総額が一定なのに、供給側の努力で内需が増える余地などないし、少なくともゼロサムゲームで消費のパイを奪い合うだけなのが、どうしてわからないのでしょうか。
それとか、消費税増税で年金不安が解消されて、消費が増えるからデフレが解消する?(笑)とか。解説は不要だと思いますが、あまり馬鹿な事を言うのもほどほどにしてもらいたいな、と思います。
とりあえず、本稿で日本経済にかんして私がここで言うことは一つだけです。唯一有効な経済政策とは、経済システム全体の循環の中で、一番弱いところ、もっとも滞っているところ、そこを強化したり流れをよくしたりすることで、全体の流れをよくすることです。現在の日本の経済システムのサイクルの中で、ボトルネックになっているのは個人消費です。より厳密に言えば、企業から労働者への貨幣流通チャンネル、つまり給与の支払いが抑制されている事が根本的な原因です。そして、この根本的な原因は、サービス残業という名の不払い労働です。サービス残業で企業が労働者に違法に払っていないお金は年間50兆円近く、GDPの1割に達しています。それだけ払っていなければ、お金が経済全体に回るわけがありません。
というと、「そんなに払ったらほとんどの企業が倒産する」とかいうひとがいますが、経済が循環するシステムであることさえ理解出来れば、その50兆円の大部分がさらに企業の売り上げになり、企業の業績も大幅に向上する、(そして労働生産性も大幅に向上する)ことがたやすくわかると思います。逆に、企業が外需などでどんなに儲かっても、それを不払い労働の強化によって対処し、労働者へ全く還元しようとしない現状では、経済の自律回復など望むべくもありません。
サービス残業が日本の経済と社会にどのような影響を与えるのかは、またそのうち稿を改めて、きちんと説明したいと思います。ともあれ、今回は「企業による利潤の最大化」という経済学者・経営者の暗黙の前提こそが、じつは経済を縮小させる最大の原因なのだ、ということだけ理解していただければと思います。

※朝三暮四 もちろんみなさん知ってるかとは思いますが、確認のため(笑)。非常に猿と戯れるのが好きな男がいた。この男は家族のことも放っておいて、猿を可愛がるものだから、餌の時間になるといつも猿が寄ってくる。ところが、それが原因である日、奥さんに「猿の餌を減らしてくれないと、子供たちの食べる物までなくなってしまう」と窘められてしまう。困った男は何とか猿たちを籠絡しようとし、一斉に呼びかけた。これからは「朝には木の実を三つ、暮(ばん)には四つしかやれない」と告げるも、猿たちは皆不満顔。それならば「朝は四つ、暮は三つならどうだ」と言うと、合計七つと変わらないにも係わらず猿は皆、納得してしまったのである。

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