2016年7月9日土曜日

安倍内閣が進める「一億総社畜化計画」

はじめに

先日、「アベノミクスの本丸、ブラック企業合法化法案がやってくる」というタイトルのブログ記事を書きました。先日塩崎厚労大臣の発言についても書いたのですが、やはり「法案を曲解しすぎだ」という批判が来ます。

ところで、最近、「ヒラ社員も残業代ゼロ」構想の全内幕 という記事について読み、驚愕しました。2年前の東洋経済の記事ですが、安倍晋三と経団連・経産省が「全従業員の労働時間規制・残業代規制の撤廃を計画していた」ことが、極めて詳細に書かれています。

もう一つ重要なことは、安倍の言う「一億総活躍」と「女性が輝く社会」というアイディアが、どういう意図のもと、どういう経緯で産まれたのか、二年後の今だからわかります。

「ヒラ社員も残業代ゼロ」構想の全内幕

「ヒラ社員も残業代ゼロ」構想の全内幕 東洋経済オンライン
http://toyokeizai.net/articles/-/38399

この記事は非常に具体的かつ緻密ですが、それだけに一読ではわかりにくいので、要点をかいつまんで説明します。

  • 2014年4月22日、内閣府の経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議で、「労働時間と報酬のリンクを外す「新たな労働時間制度」を創設するとしてAタイプ(労働時間上限要件型)とBタイプ(高収入・ハイパフォーマー型)が提示された。
  • Aタイプは一見意味不明だが、内閣府副大臣の西村康稔、厚生労働副大臣の佐藤茂樹を中心に関係者が集ったその前の非公式会合では、「スマートワーク」という名前だった。
  • その中身は、「本人の同意と労使合意さえあれば、どんな業務内容の新入社員でも労働時間規制が及ばず、残業代なし、深夜・休日割り増しなしで働かせることができる」というもの。この非公式会合の出席者からは、原案を問題視する声は上がらなかった。
  • スマートワークの発案者は、経済産業省経済産業政策局長の菅原郁郎。ただし、第一次安倍政権時に「ホワイトカラーエグゼンプション」で失敗していることもあって、安倍周辺も慎重な物言いを隠せず、経団連も矢面に立つつもりがなく、強力な推進薬が不在。
  • そこで菅原郁郎が着目したキャッチフレーズが「女性の活用」。柔軟な働き方を望む子育て世代や親介護世代の女性の活用のため、という建前に組み替えた。
  • 22日の会合で安倍首相は「時間ではなく成果で評価される働き方にふさわしい、新たな労働時間制度の仕組みを検討していただきたい」と発言。また、5月1日にも「もっと柔軟な働き方ができるように労働法制を変えていく。やり遂げなければ日本は成長できない」と発言。この発言をきっかけに、労働規制緩和のレールが敷かれた。

この記事は、安倍内閣の本音を示す上で極めて重要な資料です。要するに、安倍政権と財界としては、全労働者に対して労働基準法を除外させて、深夜・長時間定額で働かせたいというのが本音。かつ、記事も「東洋経済」という非常に信頼できるソースです。この記事を読んだ人から、次々と「これは社畜化だ」「日本国民の奴隷化だ」という声が上がったのも無理はありません。

大事なことは、安倍政権としては、世論の声を非常に恐れているということ。記事でもかかれているように、労働規制緩和が「本音であるスマートワークまで近づくかは世論の動向次第」です。だからこそ私たちは、彼らの方便にとらわれず、彼らの本音を理解し、常にNOを突きつけていくことが大切だと私は考えます。

自民党改憲草案と一億総社畜化計画

ここで一つだけ、あまり語られていない補助線を引いておきます。2012年に自民党が出した改憲草案との関係です。私は以前、「ブラック企業合法化」の思想と、自民党改憲草案の精神は、根っこが同じであると書きました。

憲法改正と言うと、「9条」ばかり語られることが未だに多いですが、この草案の本質は「基本的人権の制限と、政府に対する国民の従属」にあります。たとえば、改憲草案の第12条は、のようになっています。

(国民の責務)
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
(太字は現憲法からの変更箇所)

つまり、基本的人権は与えてやるけど、「公益及び公の秩序に反するな」ということです。これは、「給料出してやってるんだから、会社の利益のために何時間でも働くべきだ」というブラック企業の思想と合致します。それだけではなく、たとえ世論の反対があって「全従業員の社畜化」に失敗したとしても、この憲法改正が通れば、憲法を盾にブラック企業が全面的に合法化されることが十分に考えられます。

でも、憲法って抽象的なものだし、私たちの暮らしはあんまり変わらないんじゃないの?というのが多分大部分の日本人の感覚でしょう。確かに日本国憲法は、私たちの生活に直接関係していることは見えにくかった。それは日本国憲法が権力を縛るものだからです。

日本国憲法には、そもそも憲法尊重擁護義務というものがありました。それは、私たちの基本的人権を守るために、権力を委託されている人は日本国憲法を守らなければならない、というものです。

天皇または摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

自民党改憲草案は、憲法尊重義務は国民に課されています。

第百二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。

つまり、労働者が自分たちの権利(残業代や休暇その他)を主張するのは、「公益に反する」とみなされその人は憲法尊重擁護義務に違反したことになる。また、賃上げのためのストライキなどは、明らかに「公の秩序」に反することになる。

こんな憲法を、まさに政府の人間は擁護する義務を課されているわけです。つまり、国会議員が労働者の権利を擁護し、ブラック企業を再び非合法化しようとすると、「憲法尊重擁護義務」違反ということになります。

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